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鈴木 俊宏 氏【日本オラクル株式会社】
グリッド・コンピューティングには短期的なメリットと、長期的なメリットがありますが、まず短期的なメリットについてお話しましょう。短期的なメリット、つまりここ1年から3年におけるメリットは遊休資産を無くすというものです。インターネットの時代に入って、Webサービスなどが発展してきました。それによりハードウェア等の資産をたくさん購入する必要が生じてきました。クライアント・サーバーの時の資産とは比べものにならないくらいのハードウェアを購入する必要が生じたのです。クライアント・サーバーの場合、クライアントの数が分かっているので、1秒間のトランザクション数など、ある程度想定できます。しかし、インターネットの世界では、いつどの程度のアクセスがあるかということが予測できなくなってしまいました。
よく言われるのが、クリスマスや年末商戦のインターネットの利用です。アメリカではクリスマスになるとインターネットで買い物をする人が急激に増えるようです。しかし、クリスマスが過ぎて2月、3月になるとインターネットで買い物をする人は激減します。その時に稼働率を最大になるように設定しておくと、1年間のうち10カ月以上は、稼働率数%程度ということになります。でもピークの時を見込んでサーバーを購入しないと、次のクリスマス商戦には戦えなくなってしまいます。このように予測を立ててサーバーを購入しても、それを上回るアクセスがあるとサーバーがダウンするという危険性もあります。
もう一つ身近な例をあげるならば、給与計算システムです。これについても同じことが言えるでしょう。給与計算システムは毎日24時間稼働してるわけではなくて、1ヶ月の内の数日稼動すれば計算できてしまいます。しかし、その数日のためにも単純にサーバーが必要になってくるのです。ある時期使われていて、ある時期になると使われなくなる。そのような時間的な遊休資産が、現在かなり存在しています。それがインターネットの世界で徐々に顕著になってきました。
現在はシステムごと、アプリケーションごとに構築しているサーバーを、コンソリゼーション、つまり一本化し、複数の業務間でリソースを共有することによって、遊休資産を解消し効率の良いアプリケーション・プラットフォームを構築することができるというのがグリッド・コンピューティングの短期的なメリットです。
最近様々なカンファレンスで、あるリサーチャーがユーザー企業等にインタビューをしています。「グリッド・コンピューティングに対する期待は何ですか」という問いに対して、最近ではリソースシェアリングや、サーバー・コンソリゼーションというキーワードが、筆頭に挙げられるようになりました。
グリッド・コンピューティングはもともとサイエンス系からはじまっています。サイエンティストたちは、分析や管理などコンピュータに負担がかかる処理を行うために、点在するPCサーバーをつないで、処理能力の高い、高価なサーバーとして見立てるという研究をしていました。限られた予算の中で研究を行うためにこのようなところに目を向け、グリッド・コンピューティングを導入し、効果をあげてきたのです。
このようにして研究分野で実証されたグリッド・コンピューティングが、商用界でも注目されはじめ、ニーズが高まってきています。インターネットの世界ではまず投資しないとサービスを作ることはできません。つまり現在は新しいサービスを始めるたびにサーバーを新しく購入しています。しかし先ほど述べたようにせっかく購入したものが、ある時期に遊休資産となってしまっています。商用界でもグリッド・コンピューティングを導入することで現在遊休資産となっているものをうまく活用することができるようになるのです。
長期的なメリットとしては、ユーティリティ・コンピューティングがあげられます。ウェブサービスでも、ユーティリティ・コンピューティングを目指そうとした時期はありました。しかし、まだ公共サービスのように汎用的なユーティリティ・コンピューティング・サービスというのは実現していません。
グリッドで、ユーティリティ・コンピューティングといってもどのようなサービスを提供できるのかまだ見えていない部分もありますが、長期的にみてそのようなサービスも視野に入れています。グリッド・コンピューティングが出た当初は、先程お話した短期的なメリットでなく、こちらの長期的なメリットに主に注意が向けられていました。
このユーティリティ・コンピューティングを実現するためには、データフォーマットやスキーマを統一することが重要になります。これから10年後の話に向かって行くとしても、統一されたフォーマットがないと連携は難しいので、今一番潜在的に重要な技術ともいえるでしょう。
オラクルとしては、サーバー・コンソリゼーションやリソースシェアリングなどの、いわゆる“短期的”なメリットに目を向けて、主に商用製品を扱っています。
ソリューション先行型の会社が多い中でオラクルでは、プロダクト先行を旨とし、“製品に新技術を盛り込むことにより誰でも安心して利用できる技術”を目指しています。
具体的な商品としては、現在“Oracle 10g”というものをリリースしています。“Oracle 10g”とは、グリッド・コンピューティングを実現するために開発された始めてのプラットフォームで、アプリケーション・サーバー、データベース、ストレージの3つの階層でともにグリッドを実現しています。(図1)
図1:Oracle10gでは3つの階層でグリッドを実現
このように3つの階層でグリッドを実現していることには大きな意味があります。様々な階層で各々のリソースの共有を実現し、そしてお互いの層が協調しないと、プラットフォーム全体としてリソースを最大限に利用することが出来ません。例えばある一つの層がリソースを上手に運用できないとそこにボトルネックが存在することになります。
Oracle 10gでは、基盤にReal Application Clusters (RAC)という技術を用いています。RACを採用することでスケーラビリティと信頼性を併せ持つことが可能になります。Oracle 10gの前のOracle 9iの時代からRACは取り入れられていますが、Oracle 10gではさらにRACを強化し、柔軟性が増しています。
ストレージの面では新しくAutomatic Storage Management(ASM)を使用して、ストレージ・グリッドを実現しました。物理的な構成をASMで仮想化することによって、ファイルの配置を考える必要はなくなりますし、ファイル・システムを気にせず複数のストレージを1つのストレージとして仮想化できます。Oracle Database が提供する全てのプラットフォームで ASM が使用出来ますので、プラットフォームが異なっていても、同じ操作でストレージ管理が可能になります。様々なストレージを組み合わせても、パフォーマンス、管理性などの基本要件を満たしています。アプリケーション・サーバーや、データベース同様、ストレージにおいても管理を自動的に行うことができます。(図2)
図2:Oracle10gで用いられている様々なテクノロジー
Oracle Enterprise Manager 10gでは、Oracle Database10g と、Oracle Application Server 10g を統合的に管理することが可能になりました。グリッド・コンピューティングを実現する上で多くの資産を管理するというのはとても重要です。どの資産がどのように使われているのかを把握し管理を行うことで、例えばどこか一つのシステムが正常に動かなくなったときや、アラートが上がった時にどこに代替するかをモニターして、切り替えることができます。商用系では、すべてのリソースを管理し管理作業そのものを自動化することにより、とかく煩雑になるグリッド・コンピューティング環境の管理の負担を減らし、管理作業のコストを低くすることができます。
Oracle10gでは、ハードウェア構成を最大限に有効利用してグリッド・コンピューティングの環境を構築出来ますので、投資を最小限に抑えて最大限のパフォーマンスを実現することが可能になります。このように、低コスト、柔軟性、高品質のサービスを実現しています。もちろん、グリッド・コンピューティング専用のアプリケーションを新たに作成する必要はありません。Oracle10gの採用により、いまお使いのアプリケーションがグリッド化されます。
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